火星にたった一人で取り残された宇宙飛行士が、ジャガイモを育てて生き延びようとする。
映画『オデッセイ』(2015年)には、そんな驚きの場面が登場します。
でも、そもそも火星でジャガイモは育つのでしょうか?
結論からいうと、適切な栽培環境を整えれば可能性はあります。ただし、火星の土にそのまま植えるだけでは育ちません。
NASAも宇宙でのジャガイモ栽培を研究してきました。
今回は映画の設定を手がかりに、火星で農業をするために必要な条件を科学的に検証します。
※この記事では、映画序盤のジャガイモ栽培に関する展開に触れます。
映画『オデッセイ』でジャガイモを育てる理由
映画『オデッセイ』の主人公は、宇宙飛行士のマーク・ワトニー。
火星での探査中に事故が起こり、仲間たちは彼が死亡したと思って地球への帰還を開始します。
ところが、ワトニーは生きていました。
問題は、残された食料だけでは救助まで生き延びられないこと。
そこで植物学者でもあるワトニーは、基地の内部に畑をつくり、ジャガイモを栽培することを思いつきます。
火星の土を運び込み、肥料や水を用意して、食料を自分で生産しようとするのです。
この栽培方法は、どこまで科学的に正しいのでしょうか?
火星の土でジャガイモは育つ?

最大の問題は、火星の土です。
地球の畑の土には、植物が利用できる栄養分や有機物、微生物などが含まれています。
一方、火星の地表を覆う物質は、主に岩石が細かく砕けた「レゴリス」です。
NASAによると、火星のレゴリスには、植物の成長に必要な栄養分の多くが不足しています。
さらに厄介なのが、過塩素酸塩(かえんそさんえん)という物質です。
火星の土壌には過塩素酸塩が含まれており、植物の成長や収穫物の安全性に問題を生じさせる可能性があります。
つまり、映画のように火星の土をそのまま使う方法には、科学的な課題が残っています。
実際に栽培するなら、有害物質の除去や栄養分の調整が必要になるでしょう。
火星でジャガイモを育てる4つの条件

火星でジャガイモを育てるには、少なくとも次の条件を整える必要があります。
① 水|植物が吸収できる水を確保する
ジャガイモも植物なので、水がなければ成長できません。
火星には水の氷が存在しますが、それを農業に利用するには、取り出して必要な状態にする設備が必要です。
映画ではワトニーが水をつくろうと奮闘します。
ただし、作中で描かれる化学反応を利用した方法には危険が伴います。
現実の火星農業では、水を安全に確保し、繰り返し利用する仕組みが重要になるでしょう。
なお、宇宙に存在する氷は地球で見慣れた氷だけではありません。「水に沈む氷が存在する!?|普通の氷とは違う『高圧氷』の秘密」では、圧力によって変わる氷の性質を解説しています。

② 空気と気圧|火星の屋外では育てられない
火星の大気は非常に薄く、主成分は二酸化炭素です。
二酸化炭素は光合成に必要ですが、二酸化炭素さえあれば植物が育つわけではありません。
植物が正常に成長するには、適切な気圧や温度、水分などが必要です。
火星の屋外は気圧が極めて低いため、そのままジャガイモを栽培することは困難です。
映画のように、気圧や空気を管理できる密閉型の栽培施設が必要になります。
③ 温度と光|寒さと日照不足への対策
火星は地球より太陽から遠く、受け取る太陽光のエネルギーも少なくなります。
また、火星の地表は非常に寒く、気温の変化も大きい環境です。
ジャガイモを育てるには、栽培施設を暖めたり、必要に応じて人工照明を使ったりする必要があります。
つまり、火星の農業は、地球の畑よりも温室栽培に近いものになると考えられます。
④ 土壌と栄養|肥料を加えるだけでは不十分
植物の成長には、窒素・リン・カリウムなどの栄養分が必要です。
映画では、ワトニーが人間の排泄物を肥料として利用します。
栄養分を再利用するという考え方には科学的な合理性があります。
しかし、未処理の排泄物をそのまま肥料に使うと、病原体などによる衛生上の問題が生じます。
現実には、適切な処理と栄養管理が必要です。
さらに、火星のレゴリスに含まれる有害物質への対策も欠かせません。
NASAもジャガイモの宇宙栽培を研究していた!

実は、ジャガイモは宇宙農業の研究対象として注目されてきた作物です。
NASAは、限られた空間や資源を利用して植物を育てる研究を行ってきました。
その中には、ジャガイモを水耕栽培する実験もあります。
ジャガイモは食料としての栄養価が高く、収穫量も期待できるため、宇宙で育てる作物の候補になり得ます。
ただし、NASAがジャガイモの栽培研究を行っていることと、火星での栽培がすでに実現したことは別です。
火星の土を使わず、栄養分を含んだ水で育てる水耕栽培も有力な選択肢になります。
映画の発想は決して荒唐無稽ではありませんが、実現には多くの技術が必要なのです。
まとめ|映画のジャガイモ栽培は実現できる?
映画『オデッセイ』のように、火星でジャガイモを育てることは、科学的にまったく不可能というわけではありません。
しかし、火星の土をそのまま使うことには問題があります。
栽培には、水・気圧・温度・光・栄養分を管理し、土壌の有害物質にも対処する必要があります。
つまり、火星でジャガイモを育てる鍵は、火星を地球の畑のように使うことではなく、植物が育つ環境を人工的につくることです。
映画で描かれるワトニーの挑戦は、未来の宇宙農業について考える絶好のきっかけになります。
🎬 映画『オデッセイ』を観て科学を楽しむ
『オデッセイ』(2015年)
- 監督:リドリー・スコット
- 主演:マット・デイモン
- ジャンル:SF・サバイバル
- 上映時間:約142分
火星に一人で取り残された宇宙飛行士が、科学の知識と工夫を駆使して生き延びようとする物語です。
ジャガイモ栽培だけでなく、水の確保や通信手段の復旧など、科学的な問題解決が次々と描かれます。
「もし自分が火星に取り残されたら?」と考えながら観ると、理科の知識がさらに面白く感じられる作品です。
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参考・出典
本記事は、以下の映画公式情報・NASAの研究資料・科学関連機関の公開資料を参考に作成しました。
- 20世紀スタジオ|映画『オデッセイ』公式サイト
映画のあらすじ、制作情報、登場人物、作品の基本情報について。 - NASA|Plant Researchers Explore Question of Deep-Space Food Crops
宇宙での食料生産、ジャガイモの水耕栽培、火星のレゴリスの栄養不足について。 - NASA|Rocket Ranch – Episode 1: Mars
火星でのジャガイモ栽培の現実性、過塩素酸塩の問題、宇宙農業の研究について。 - American Society of Agronomyほか|Farming on Mars? The Martian raises questions about soil
映画『オデッセイ』を題材とした、火星の土壌と植物栽培に関する科学的な考察。 - Boston University|The Martian Nails the Science (Mostly)
映画の科学的な正確さと、火星の栽培施設で植物を育てる条件について。

