小説なのに、なぜ「小」?|実は長さと関係ない意外な語源!

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『源氏物語』のような長い物語も、数ページで読める短編も、どちらも「小説」と呼ばれます。

でも、少し不思議ではありませんか?

なぜ「小説」には「小さい」という漢字が使われているのでしょうか?

実は、この「小」は文章の短さではなく、もともとは「取るに足りない話」「ささいな言説」という意味に関係しています。

その語源は、古代中国にまでさかのぼります。

目次

「小説」の「小」は、物語の長さではなかった

現代の小説には、短編・中編・長編などの種類があります。

しかし、「小説」という言葉が生まれたときの「小」は、作品の長さを表していたわけではありません。

古代中国では、政治や思想などの重要な議論に比べて、身近な出来事や世間のうわさ、細かな話などを低く位置づけることがありました。

こうした「小さな話」「ささいな説」が、「小説」という言葉の出発点です。

つまり、現在のように「創作された物語」を意味する言葉ではなかったのです。

語源は古代中国の『荘子』と『漢書』

「小説」という言葉は、中国の古典『荘子(そうじ)』に登場します。

『荘子』の「外物篇」では、「小説」は大きな道理には及ばない、取るに足りない議論という意味で使われています。

さらに、後漢時代に成立した歴史書『漢書(かんじょ)』の「芸文志(げいもんし)」にも、「小説家」という分類が登場します。

そこでは、小説を街中の話や人づてに聞いた話などと結びつけています。

当時の「小説家」は、現在のような物語を書く作家とは意味が異なりました。

古代中国の「小説」は、文学作品の長さではなく、話の内容や社会的な位置づけに関係する言葉だったのです。

「つまらない話」は、どうして文学になった?

では、古代中国で低く見られていた「小説」が、なぜ現在のような文学を意味するようになったのでしょうか?

中国では、時代が進むにつれて、伝説や不思議な出来事を記した話、人物の行動を描く物語などが発展しました。

唐代の伝奇、宋代以降の語り物、明・清代の長編物語など、物語文化が豊かになっていきます。

それに伴い、「小説」という言葉も、さまざまな物語を指すようになりました。

言葉は同じでも、指しているものが時代とともに変わったのです。

日本で「小説」が定着したのはいつ?

日本でも「小説」という言葉は、明治時代より前から使われていました。

しかし、現在のような近代文学の意味を広めるうえで、大きな役割を果たしたのが坪内逍遥(つぼうちしょうよう)です。

逍遥は1885〜1886年に『小説神髄(しょうせつしんずい)』を発表しました。

それまでの物語に多かった、善人が報われ悪人が罰せられる「勧善懲悪」だけでなく、人間の感情や社会の姿を描くことを重視しました。

『小説神髄』によって、西洋の novel に対応する近代的な文学としての「小説」が、日本で広く意識されるようになったのです。

ただし、坪内逍遥が「小説」という言葉そのものを発明したわけではありません。

古くからあった言葉に、新しい文学の意味が定着していったと考えるのが正確です。

もっと深く知る|「小説」の歴史がわかる2冊

「小説」という言葉の変化をさらに知りたい方に、おすすめの2冊を紹介します。

① 坪内逍遥『小説神髄』

1885〜1886年に刊行された、日本の近代文学を考えるうえで重要な文学論です。

坪内逍遥は、小説が単なる教訓話ではなく、人間の心や世の中の姿を描く芸術であることを論じました。

「日本で小説はどのように考えられるようになったのか?」を知るのに適した一冊です。

小説神髄 (岩波文庫 緑4-1) [ 坪内 逍遥 ]

② 大塚秀高『中国古典小説史』

「小説」という言葉のルーツを知りたい方におすすめです。

正式な書名は『中国古典小説史――漢初から清末にいたる小説概念の変遷』です。

古代中国で「つまらぬ言説」を意味した「小説」が、時代とともにどのように変化したのかをたどる研究書です。

中国文学の歴史を通じて、今回の記事の疑問をさらに深く考えられます。

中国古典小説史 漢初から清末にいたる小説概念の変遷 (ちくま学芸文庫 オー38-1) [ 大塚 秀高 ]

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2冊の違いは、古代中国で「小説」がどう生まれたかを知るなら『中国古典小説史』、日本で近代小説がどう確立したかを知るなら『小説神髄』という点です。

関連記事|文学の名前には意外な意味がある

「小説」という言葉の意味が時代とともに変わったように、文学の分類も一見しただけでは分からないことがあります。

例えば、詩の形で書かれた作品を「小説」と呼ぶことはできるのでしょうか?

『赤の自伝』から考える詩と小説の違いでも、この疑問を取り上げています。

まとめ|「小説」の「小」は長さではなく、昔の評価

「小説」の「小」は、文章が短いという意味ではありません。

もともとは古代中国で、重要な思想や議論に比べて、ささいな話と見なされたことに関係しています。

その後、物語文化の発展とともに意味が変わり、日本では坪内逍遥らの活動を通じて、現在のような文学の名称として定着しました。

「小説」というたった二文字にも、長い言葉の歴史が隠されているのです。

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