江戸時代の庶民は、いったいどれくらいのお金を稼いでいたのでしょうか?
「昔の人は今よりずっと貧しかった」と思うかもしれません。
ところが、江戸時代には大工などの職人が比較的高い賃金を得ていた例もあります。
一方、商人は店の規模によって収入が大きく異なり、奉公人には住み込みで働く人もいました。
同じ江戸時代でも、仕事によって稼ぎ方も生活の仕組みもまったく違っていたのです。
今回は、大工・商人・奉公人の収入を比較しながら、江戸時代の庶民の意外な家計事情を見ていきましょう。
江戸時代の庶民の年収はいくらだった?
まずは、江戸時代の代表的な仕事の収入を見てみましょう。
| 職業 | 当時の収入の目安 |
|---|---|
| 大工 | 日当銀3〜5匁程度の例 |
| 商人 | 店の規模や商売によって大きく異なる |
| 武家の下女奉公人 | 年間2〜3両の例 |
| 町方の男性奉公人 | 年間2両の例 |
| 町方の女性奉公人 | 年間1両の例 |
※大工は江戸後期の職人賃金の例、奉公人は19世紀前半の関東農村に関する史料の例です。地域・時代・仕事内容が異なるため、同一条件の平均年収比較ではありません。
ここで重要なのは、江戸時代の「1両」を現在の何円と考えるかです。
実は、江戸時代の1両を現代の円に正確に換算することはできません。
例えば、江戸時代中〜後期の1両を比較した研究では、米価を基準にすると約5万5,000円、大工の賃金を基準にすると約30万円という大きな違いが生じます。
つまり、江戸時代の年収を現代と比較するときには、何を基準に計算したのかが重要なのです。
① 大工の年収は現代の800万円相当!?

江戸時代の庶民の仕事の中で、比較的高い賃金を得られた職業の一つが大工でした。
江戸では人口が増え、住宅や商家の建築、建物の修理などが必要とされました。
また、木造建築が中心だったため、建築技術を持つ職人の仕事には需要がありました。
大工の日当はいくらだった?
江戸後期の文政年間(1818〜1831年)には、大工などの職人の手間賃が1日あたり銀3〜5匁、銭にしておよそ324〜540文だったと紹介されています。
仮に1年間に240日働き、1両=銀60匁という計算上の条件を置くと、次のようになります。
| 日当 | 年間240日働いた場合 |
|---|---|
| 銀3匁 | 12両 |
| 銀4匁 | 16両 |
| 銀5匁 | 20両 |
※史料に記録された個人の実年収ではなく、日当から計算した仮定の年収です。実際の稼働日数や貨幣の交換相場は一定ではありません。
では、現代の金額にするといくらでしょうか?
磯田道史氏が監修した『新版 江戸の家計簿』では、「大工の年収800万円」という現代換算の数字が紹介されています。
ただし、これは現代の年収800万円と同じ購買力や生活水準だったという意味ではありません。
当時は天候や仕事の有無によって収入が変わり、職人としての技量による差もありました。
大工が高い賃金を得られる場合があったとしても、毎月決まった給料が保証されていたわけではなかったのです。
② 商人の年収は? 大商人と小商人では大違い!

江戸時代の商人の収入は、大工以上に一律の数字で表すことが難しいものでした。
なぜなら、商人といっても、店を構える大商人から、小さな商売を営む人まで幅広かったからです。
大商人と小商人では何が違う?
例えば、大きな商家では多くの商品を扱い、奉公人を雇いながら商売を行っていました。
一方、小さな店や行商では、自分で商品を仕入れて売り歩く人もいました。
ここで大切なのは、売上と収入は同じではないということです。
仮に、ある商人が年間100両の商品を売ったとしても、仕入れや店の維持に80両かかれば、差し引きは20両です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年間売上 | 100両 |
| 仕入れ・経費 | 80両 |
| 差し引き | 20両 |
※商売の仕組みを説明するための仮定の数字です。
しかも、この20両がそのまま店主個人の自由に使えるお金になるとは限りません。
借金の返済や事業への再投資なども必要になるからです。
したがって、江戸時代の商人については「平均年収○万円」と決めるよりも、商売の規模によって収入に大きな差があったと理解することが重要です。
③ 奉公人の年収は1〜3両!? でも食事と住まいが付いていた?

江戸時代には、商家や武家などに雇われて働く「奉公人」がいました。
奉公人の仕事には、家事、店の仕事、雑用など、さまざまなものがありました。
日本銀行金融研究所の貨幣博物館が紹介する19世紀前半の賃金例では、次のような数字が示されています。
| 奉公人の種類 | 年間給金 |
|---|---|
| 武家の下女奉公人 | 2〜3両 |
| 町方の男性奉公人 | 2両 |
| 町方の女性奉公人 | 1両 |
大工の賃金と比べると、現金で受け取る給金は少なく見えます。
しかし、ここには重要な違いがあります。
住み込みの奉公人は、現金給料だけでは比較できない!
奉公人の中には、主人の家に住み込み、食事や住まいの提供を受けながら働く人もいました。
その場合、現金の給金だけでなく、衣食住の提供も生活を支える要素になります。
例えば、現代でも、家賃や食費を自分で負担する人と、住居や食事を提供される人では、同じ現金給料でも生活費の負担が違います。
もちろん、住み込みだからといって生活が楽だったとは限りません。
仕事の内容や拘束時間、主人との関係によって、暮らしは大きく異なりました。
江戸時代の奉公人の収入は、現金の給金だけでは実態を判断できないのです。
江戸時代の1両は現代の何円? 換算すると驚きの差が!

ここまで江戸時代の収入を見てきましたが、現代の金額に直すとどうなるのでしょうか?
参考として、1両を5万5,000円と30万円の2通りで換算してみましょう。
| 当時の金額 | 米価基準(1両=5.5万円) | 賃金基準(1両=30万円) |
|---|---|---|
| 1両 | 5.5万円 | 30万円 |
| 2両 | 11万円 | 60万円 |
| 3両 | 16.5万円 | 90万円 |
| 12両 | 66万円 | 360万円 |
| 20両 | 110万円 | 600万円 |
※江戸時代の貨幣価値を説明するための参考計算です。1両の換算基準は江戸東京博物館のレファレンス事例を参照しています。実際の生活水準や現在の給与額と直接比較できる数字ではありません。
同じ20両でも、計算方法によって110万円にも600万円にもなります。
これは、当時と現代では米や労働の相対的な価値が違っているためです。
つまり、江戸時代の年収を知るうえで本当に重要なのは、単純に現代の円へ置き換えることではありません。
何を買えて、どのような生活を送れたのかを考えることなのです。
武士と庶民、どちらの暮らしが豊かだった?
ここまで見てきたように、江戸時代の庶民の収入は職業によって大きく異なりました。
一方、武士は社会的地位が高くても、必ずしも経済的に余裕があったわけではありません。
武士の多くは家の身分に応じた俸禄を受け取り、そこから生活費や家の維持費などを支払っていました。
特に米を基準とする俸禄では、米価の変動が現金収入に影響しました。
さらに、武士としての体面を保つための出費が重なり、借金を抱える家もありました。
詳しくは、下記の関連記事で解説しています。

大切なのは、武士だから裕福、庶民だから貧しいと単純には分けられないことです。
江戸時代の暮らしは、身分だけでなく、職業・収入の仕組み・家族構成・支出によっても大きく変わっていたのです。
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江戸時代の庶民は、どれくらい稼ぎ、何にお金を使っていたのでしょうか?
そんな疑問をさらに深く学べるのが、歴史学者・磯田道史氏が監修した『新版 江戸の家計簿』です。
本書では、江戸時代の収入・物価・税金などを現代のお金と比較しながら、当時の暮らしを紹介しています。
大工の年収だけでなく、住居費や食べ物の値段、武士の収入など、身近なお金の話題が取り上げられています。
この記事を読んで「江戸時代の人は本当に豊かだったの?」と興味を持った方におすすめの一冊です。
まとめ|江戸時代の年収は、職業によって大きく違った!
江戸時代の庶民の収入を比べると、次のことが分かります。
- 大工: 技術を持つ職人として比較的高い賃金を得られる場合があった。
- 商人: 商売の規模や経費によって収入に大きな差があった。
- 奉公人: 現金給料は少なくても、住み込みによる衣食住の提供がある場合もあった。
そして、江戸時代の1両を現代の円に換算する方法は一つではありません。
単純な年収の数字だけでは、当時の暮らしの豊かさを判断できないのです。
武士も庶民も、それぞれの収入と支出の中で生活していた江戸時代。
お金という視点から歴史を見ると、教科書に登場する江戸時代が、ぐっと身近に感じられるのではないでしょうか。
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