国語辞典を開けば、何万もの言葉と、その意味が並んでいます。
でも、あれほどたくさんの言葉を、いったい誰が、どうやって調べているのでしょうか?
実は、辞書は単に言葉の意味を書き集めて作るものではありません。
実際に使われている言葉を集め、意味を調べ、説明文を何度も練り直す。 そんな地道な作業を積み重ねて完成します。
大規模な辞書では、制作や改訂に何年、場合によっては何十年もの歳月がかかることもあります。
今回は、辞書作りの驚くべき裏側を紹介します。
辞書はどうやって作る?|完成までの5つの工程

辞書作りは、専門用語で「編纂(へんさん)」と呼ばれます。
辞書の種類によって方法は異なりますが、国語辞典では、おおむね次のような作業が行われます。
| 工程 | 主な仕事 |
|---|---|
| ① 言葉を集める | 新聞・本・会話・ネットなどから実例を探す |
| ② 収録語を選ぶ | 辞書に載せる言葉を検討する |
| ③ 意味を調べる | 実際の使われ方を比較する |
| ④ 説明文を書く | 短く正確な「語釈」を作る |
| ⑤ 確認・校正する | 誤りや説明の食い違いを修正する |
特に重要なのが、言葉が実際にどのように使われているかを調べることです。
例えば「やばい」。
もともとは危険な状況などを表す言葉ですが、現在では「すごい」「素晴らしい」といった肯定的な意味でも使われます。
辞書の編集者は、こうした意味の広がりを、実際の使用例から確認していきます。
言葉の意味は、編集者が自由に決めるのではなく、社会で使われている言葉を観察して記述するのです。
辞書編集者は言葉を集め続ける!?|145万枚の用例カード

辞書作りの仕事で驚くのが、言葉の実例を集める「用例採集」です。
『三省堂国語辞典』の編纂を支えた見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)は、生涯にわたって膨大な用例を集めました。
その数は、約145万枚。
新聞や雑誌などで見つけた言葉の使われ方を、カードに記録していたのです。
なぜ、そこまで実例を集めるのでしょうか?
理由は、同じ言葉でも、時代や使う場面によって意味が変わるからです。
一つの例だけを見て意味を決めてしまうと、実際の使われ方を正しく説明できないかもしれません。
たくさんの用例を比較することで、その言葉がどんな意味で、どんな場面で使われているのかが見えてきます。
現在はデジタル化された文章データを利用する方法もありますが、実例を確かめる重要性は変わりません。
辞書はなぜ完成まで何年もかかる?

最大の理由は、膨大な数の言葉を、一語ずつ確かめなければならないからです。
例えば、大型国語辞典『日本国語大辞典 第二版』には、約50万語が収録されています。
しかも、言葉の意味だけではなく、古い文献に現れる使用例や、意味が変化してきた歴史まで調べています。
小学館によると、『日本国語大辞典』の初版・第二版の編纂には、3,000人以上の専門家が関わり、40年以上の歳月が費やされました。
もちろん、すべての辞書にそれほど長い時間がかかるわけではありません。
小型辞典の改訂と、数十万語を収録する大型辞典の新規編纂では、必要な作業量が大きく異なります。
さらに、言葉は辞書を作っている間にも変化していきます。
新しい言葉が生まれたり、古い言葉に新しい意味が加わったりするため、編集者は調査を続けなければならないのです。
辞書の意味は誰が決める?|たった一文に込める工夫
辞書に書かれた、言葉の意味を説明する文章を「語釈(ごしゃく)」と呼びます。
語釈は、長く説明すればよいというものではありません。
限られた文字数で、ほかの言葉との違いまで伝える必要があります。
例えば「右」という言葉。
誰もが知っている言葉ですが、これを「右」という字を使わずに説明するとしたら、どうでしょう?
意外と難しいですよね。
こうした身近な言葉ほど、正確で分かりやすい説明を作るのが難しい場合があります。
辞書によって語釈が違うのは、編集方針や、言葉をどう捉えるかが異なるためです。
一つの言葉を説明する短い文章にも、編集者たちの調査と工夫が詰まっています。
🎬 映画『舟を編む』|辞書作りに15年を捧げた人々
ここまで紹介した辞書作りの仕事を、物語として体験できるのが、2013年公開の映画『舟を編む』です。
原作は三浦しをんの同名小説。監督は石井裕也、主演は松田龍平です。
主人公の馬締光也(まじめ・みつや)は、言葉に対する独特の感性を買われ、出版社の営業部から辞書編集部へ異動します。
そこで取り組むことになったのが、24万語を収録する新しい辞書『大渡海(だいとかい)』の編纂です。
映画では、辞書の完成まで15年という長い時間をかけ、編集者たちが言葉と向き合う姿が描かれます。
注目してほしいのは、辞書を作る人たちが、言葉の意味だけでなく、言葉を使う人間そのものにも向き合っていることです。
主人公の馬締は、言葉に詳しい一方で、自分の気持ちを相手に伝えるのは得意ではありません。
「言葉を説明すること」と「言葉で気持ちを伝えること」。
その両方の難しさが描かれているのも、この映画の魅力です。
辞書作りの工程を知ってから鑑賞すると、何気ない編集作業の一つひとつが、違って見えてくるでしょう。
『舟を編む』の作品情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公開年 | 2013年 |
| 監督 | 石井裕也 |
| 主演 | 松田龍平 |
| 主な出演者 | 宮﨑あおい、オダギリジョー |
| 原作 | 三浦しをん『舟を編む』 |
| 上映時間 | 133分 |
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辞書は完成したら終わり?|言葉とともに進化する
実は、辞書は一度完成すれば終わりというわけではありません。
言葉は時代とともに変化するため、辞書も改訂を重ねます。
例えば、小学館は『日本国語大辞典 第三版』の編纂を進めており、2032年の刊行を目指しています。
新しい言葉や意味を追加するだけでなく、研究成果やデジタル技術も取り入れながら、辞書そのものを更新していくのです。
最近のネットスラングも、言葉が変化し続けていることを示す身近な例です。
例えば、当サイトの「ドパガキ」とは?|流行語大賞候補になった新語の意味と由来では、2026年に注目された新しい言葉の意味と成り立ちを解説しています。

こうした言葉が今後も使われ続けるのか、辞書に収録されるのかは、これからの社会での使われ方によって変わっていきます。
まとめ|辞書は言葉を集め続ける人たちが作っている!
辞書は、言葉の意味を思いつくままに書いた本ではありません。
実際の用例を集め、意味を調べ、短い説明文を作り、何度も確認する。
その積み重ねによって完成します。
何年もの時間がかかるのは、収録する言葉が多いだけでなく、一つひとつの言葉を正確に説明するためです。
次に辞書を開いたときは、たった数行の説明の向こうにある、編集者たちの仕事を想像してみてください。
そして、その世界をもっと身近に感じたい方は、映画『舟を編む』もおすすめです。
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