雷がゴロゴロと鳴ったとき、「くわばら、くわばら」と唱える場面を見聞きしたことはありませんか?
実は、この不思議な言葉には、学問の神様として知られる菅原道真(すがわらのみちざね)が、死後に雷神になったという伝説が関係しています。
言い伝えによると、道真ゆかりの「桑原」という土地には雷が落ちなかったため、その名前を唱えると雷を避けられると信じられるようになったのです。
ただし、語源には別の説もあり、道真の伝説だけが確定した由来ではありません。
「くわばらくわばら」とは?雷を避けるおまじない

「くわばらくわばら」は、もともと雷が落ちないように願って唱えるおまじないです。
漢字では「桑原桑原」と書きます。
現在では雷だけでなく、嫌なことや災難を避けたいときにも使われます。
例えば、面倒な騒動に巻き込まれそうな場面で「くわばらくわばら」と言えば、「どうか自分には災難が降りかかりませんように」という意味になります。
では、なぜ「桑原」という言葉が雷除けになったのでしょうか?
菅原道真はなぜ雷神になったの?

菅原道真は、平安時代の学者・政治家です。
学問に優れ、朝廷で右大臣にまで出世しましたが、901年に政争によって大宰府へ左遷されました。
そして903年、都に戻ることなく亡くなります。
ところが、道真の死後、都では有力貴族の死や災害などが相次ぎました。
なかでも大きな出来事が、930年の清涼殿落雷事件です。
天皇の住まいである内裏の清涼殿に雷が落ち、藤原清貫らが命を落としました。
人々は、こうした災難を「無念の死を遂げた道真の祟りではないか」と恐れるようになります。
こうして、道真の霊は雷を操る恐ろしい存在と結びつけられ、雷神・天神として語られるようになったのです。
もちろん、道真が本当に雷を落としたという歴史的証拠があるわけではありません。
当時の人々が災害をどう受け止めたかを伝える、怨霊信仰の歴史です。
「桑原」には雷が落ちなかった!?
「くわばらくわばら」の由来として有名なのが、菅原道真ゆかりの土地「桑原」にまつわる伝説です。
言い伝えでは、道真の死後、都の各地に雷が落ちたのに、道真の所領だったとされる桑原には雷が落ちなかったといいます。
そこで人々は、雷が鳴ると「桑原、桑原」と唱えるようになった、というのです。
つまり、雷神となった道真が落雷させない土地の名前を口にして、自分の身を守ろうとしたわけです。
ただし、これはあくまで伝説です。
桑原に実際に一度も落雷がなかったと証明されたわけではなく、この話が唯一の語源だと確定しているわけでもありません。
もう一つの説|雷神が井戸に閉じ込められた?

「くわばらくわばら」には、道真とは異なる由来も伝えられています。
あるとき、雷神が「桑原」という土地の井戸に落ちてしまいました。
村人たちが井戸にふたをすると、雷神は外へ出られなくなってしまいます。
そこで雷神は、二度とその土地に雷を落とさないと約束し、ようやく解放されたというのです。
ほかにも、雷が桑の木を嫌うという信仰に由来する説があります。
このように、「桑原」と雷を結びつける伝説は一つではありません。
共通しているのは、雷という恐ろしい自然現象から身を守りたいという、昔の人々の願いです。
怖い雷神が、なぜ学問の神様になった?
ここで、もう一つ不思議なことがあります。
雷神として恐れられた菅原道真が、なぜ現在では「学問の神様」として親しまれているのでしょうか?
道真の霊を鎮めるため、947年に京都の北野に道真を祀る社が建てられました。
これが現在の北野天満宮につながります。
やがて道真は、災いをもたらすと恐れられる存在から、人々を守る神様としても信仰されるようになりました。
さらに、道真は生前、学問や漢詩に優れた人物だったため、学問の神様として広く敬われるようになったのです。
雷神・怨霊として恐れられた道真と、受験生に親しまれる天神様は、同じ人物。
この変化を知ると、「くわばらくわばら」という言葉にも、日本の信仰の歴史が隠れていることが分かります。
📚 もっと深く知る|『怨霊とは何か 菅原道真・平将門・崇徳院』
菅原道真の怨霊伝説をさらに知りたい方におすすめなのが、山田雄司著『怨霊とは何か 菅原道真・平将門・崇徳院』です。
2014年に中央公論新社から刊行された中公新書で、菅原道真だけでなく、平将門や崇徳院も取り上げています。
日本ではなぜ、非業の死を遂げた人物が怨霊として恐れられたのでしょうか?
そして、その霊を鎮めるために、人々はどのような信仰を生み出したのでしょうか?
本書では、こうした疑問を日本の歴史や信仰から考えることができます。
「くわばらくわばら」という一つのおまじないから、怨霊信仰の世界へ学びを広げたい方にぴったりの一冊です。
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昔から使われている言葉には、思いがけない歴史が隠れていることがあります。
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言葉の意味だけでなく、その背景にある文化を知ると、日本語がもっと面白くなります。
まとめ|「くわばらくわばら」は雷を避けるための言葉
「くわばらくわばら」は、もともと雷除けのおまじないです。
その由来として有名なのが、雷神となった菅原道真の所領「桑原」には雷が落ちなかったという伝説です。
一方で、雷神が井戸に閉じ込められたという説などもあり、語源は一つに確定していません。
そして、かつて雷神として恐れられた道真は、現在では学問の神様として親しまれています。
「くわばらくわばら」という短い言葉には、昔の人々の自然への恐れと、日本の信仰の歴史が詰まっているのです。
※「くわばらくわばら」は民間信仰に基づく言葉であり、科学的に落雷を防ぐ効果はありません。雷が鳴ったときは、建物や車の中など安全な場所へ避難しましょう。
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