「景況感DIがマイナス53」
こんな数字をニュースで見たら、どう受け取りますか?
「53%の人が景気を悪いと感じている」という意味に思えるかもしれません。
しかし、DIのマイナス53は、53%の人が景気を悪いと感じているという意味ではありません。
DIは、景気が「良くなった」と答えた人の割合から、「悪くなった」と答えた人の割合を引いて計算する指標です。
2026年10月13日に日本銀行が発表した調査では、実際に景況感DIがマイナス53.0ポイントとなりました。
今回は、この数字がどのように計算されたのかを、実際の調査結果と簡単な引き算で解説します。
景況感DIがマイナス53に!2026年9月の日銀調査

日本銀行は2026年10月13日、「生活意識に関するアンケート調査」(第107回)の結果を公表しました。
この調査では、全国の20歳以上の人を対象に、景気や暮らし向き、物価についての実感などを尋ねています。
有効回答者数は1,972人でした。
今回注目したいのは、「1年前と比べて景気はどうなったか」という質問です。
結果は次のとおりでした。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| 良くなった | 5.2% |
| 変わらない | 35.9% |
| 悪くなった | 58.2% |
※公表値は小数第1位に丸められており、無回答などもあるため、3つの割合の合計は100%になりません。
「悪くなった」と答えた人は58.2%です。
それでは、なぜニュースに出てくる景況感DIは「マイナス53.0」なのでしょうか?
景況感DIとは?「良い割合-悪い割合」で計算する

DIは「Diffusion Index(ディフュージョン・インデックス)」の略です。
アンケートなどで、異なる方向の回答がどのくらいあるかを、一つの数字にまとめるために使われます。
今回の日本銀行の景況感DIは、次の式で計算します。
景況感DI =「良くなった」の割合-「悪くなった」の割合
実際の数字を当てはめてみましょう。
5.2-58.2=-53.0
これが、今回発表された景況感DIです。
つまり、マイナス53.0とは、
「悪くなった」と答えた人の割合が、「良くなった」と答えた人の割合を53.0ポイント上回っている
という意味なのです。
ここで使う「ポイント」は、割合同士の差を表す単位です。
「53%の人が悪いと答えた」という意味ではないことに注意しましょう。
DIがマイナス53でも「景気が悪い人」は53%ではない

違いをもう少し分かりやすくするために、100人にアンケートを取ったと仮定してみます。
例えば、次のような回答だったとします。
| 回答 | 人数 |
|---|---|
| 良くなった | 10人 |
| 変わらない | 27人 |
| 悪くなった | 63人 |
| 合計 | 100人 |
この場合、「悪くなった」と答えた人は63%です。
一方、DIを計算すると、
10-63=-53
となります。
つまり、
- 「悪くなった」と答えた割合:63%
- 景況感DI:-53ポイント
という2つの数字が同時に成り立ちます。
DIは「悪いと答えた人の割合」ではなく、「良いと答えた人と悪いと答えた人の割合の差」なのです。
※この100人の例は、計算方法を説明するための架空の数字です。
同じDIでも回答の内訳は違う?
実は、DIが同じマイナス53でも、回答の内訳が同じとは限りません。
次の2つの例を見てください。
| 回答 | Aグループ | Bグループ |
|---|---|---|
| 良くなった | 10% | 5% |
| 変わらない | 27% | 37% |
| 悪くなった | 63% | 58% |
| DI | -53 | -53 |
AグループのDIは、
10-63=-53
BグループのDIも、
5-58=-53
です。
どちらも同じマイナス53ですが、「悪くなった」と答えた人の割合は異なります。
これは、DIという一つの数字だけでは、回答の内訳をすべて知ることはできないということです。
ニュースでDIが紹介されたときには、できれば「良くなった」「変わらない」「悪くなった」の割合も確認すると、調査結果をより正確に理解できます。
DIがマイナスでも改善したと言えるのはなぜ?

今回の日本銀行の調査では、もう一つ興味深い結果がありました。
2026年6月調査の景況感DIは、マイナス56.7でした。
それが9月調査では、マイナス53.0になっています。
| 調査 | 景況感DI |
|---|---|
| 2026年6月 | -56.7 |
| 2026年9月 | -53.0 |
変化を計算すると、
-53.0-(-56.7)=+3.7ポイント
となります。
つまり、DIは3.7ポイント改善したのです。
ただし、マイナス53.0という数字は、依然として「悪くなった」という回答が「良くなった」という回答を大きく上回っていることを示しています。
「前回より改善した」ことと、「景気が良いと感じる人の方が多い」ことは別です。
マイナスの数字がゼロに近づけば、DIは改善します。
しかし、それだけで景気が良い状態になったとは言えません。
景況感DIと景気ウォッチャーDIは計算方法が違う
ここで、一つ注意したいことがあります。
ニュースに登場するDIには、さまざまな種類があります。
例えば、日本銀行の今回の景況感DIは、「良くなった割合-悪くなった割合」で計算します。
一方、内閣府の「景気ウォッチャー調査」では、5段階の回答に点数を付け、回答割合を使ってDIを計算します。
こちらは50が判断の基準です。
同じ「DI」という名前でも、調査によって計算方法や基準が異なります。
そのため、ニュースでDIという言葉を見たら、どの機関の、どの調査のDIなのかを確認することが大切です。
『景気はなぜ実感しにくいのか』で経済統計をもっと学ぶ
今回の景況感DIは、数字の計算方法を知ることで、ニュースの意味が変わって見える例でした。
では、政府が発表する景気の数字と、私たちが日々感じる暮らしの実感が違うことがあるのは、なぜなのでしょうか?
そんな疑問をさらに学びたい方に紹介したいのが、前田裕之さんの著書『景気はなぜ実感しにくいのか』です。
著者:前田裕之
出版社:筑摩書房(ちくま新書)
刊行:2025年1月
この本では、景気回復という経済データと、生活が苦しいという実感が食い違う理由を考察しています。
GDPや景気動向指数の仕組み、経済統計の歴史なども取り上げています。
今回の記事で「DIという数字の意味」に興味を持った方にとって、景気を数字から考える視点を広げる一冊になるでしょう。
関連記事|ニュースの数字をもっと正しく理解する
景況感DIのように、ニュースに出てくる数字は、計算方法を知ることで理解が深まります。
物価はなぜすぐに下がらない?
物価上昇率が下がっても、商品の値段がすぐに下がるとは限りません。
「物価」と「物価上昇率」の違いを知ると、経済ニュースが読みやすくなります。

都道府県の魅力度はどうやって数字にする?
都道府県魅力度ランキングも、アンケート結果を数値化して作られています。
回答割合から一つの指標を計算するという点で、今回の景況感DIと共通しています。

鉄道利用者が増えたのに輸送量が減ったのはなぜ?
鉄道利用者数と「旅客人キロ」も、似ているようで違う指標です。
数字が何を表しているのかを考える練習になります。

まとめ|景況感DIのマイナス53は「割合の差」
2026年10月13日に日本銀行が発表した景況感DIは、マイナス53.0ポイントでした。
その計算は、
5.2%-58.2%=-53.0ポイント
です。
「悪くなった」と答えた人の割合は58.2%であり、53%ではありません。
DIは、景気に対する回答の差を表す数字です。
ニュースで「景況感DIがマイナス53」と聞いたときには、
「53%の人が景気を悪いと感じている」という意味ではない
ことを思い出してください。
数字の意味を知ることが、ニュースを正しく読み解く第一歩になります。
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